俺の名は佐藤太郎だ|恋愛偏差値50未満
「よっしゃ、行くぜ行くぜー!」
高校入学から早一ヶ月。いよいよ初の偏差値ランキング発表……さすがに緊張するな……。
「太郎、そんなに期待するなよ。まだ始まったばかりなんだからさ」
って、髪をかき上げるその余裕はなんだよ。まぁ賢人(けんと)は金持ちのおぼっちゃんだから、仕方ねぇけどお似合いの仕草か。
「ねぇ太郎(たろちぃ)、あたしは何位かなぁ?」
「知らねぇよ!」
くそっ、どいつもこいつもわざとらしい。水乃(みずの)は売り出し中のアイドルのセンターじゃねーか。住む世界が違うんだよ。
「何?その顔。笑顔は偏差値の一部だよ?」
とっ、トップスマイル!あはは……水乃にはマジ勝てねぇわ……。
そう思った瞬間、周りのざわつきが俺の目を奪う。ランキング掲示板はすぐそこか。
緊張のあまり、おもわずゴクンと唾を飲む。だがすぐに首を左右に振った。そうだ!俺だってこの1ヶ月、モテる為に色んな事をやって来たんだ!
トイレ掃除も率先してやった。校庭の花の水やりも笑顔でやったんだ。後は……まぁ、隣の女子の消しゴムを拾ったくらいか……
わずかに落とした俺の肩を、花絵(かえ)がポンと叩いた。
「そんなに緊張しなくても、太郎なら大丈夫だよ」
「なっ、何言ってんだよ。あったり前だろ?」
強がってはみたが、ハッキリ言って自信はない。そう言えば花絵は、恋愛偏差値を上げる為に何かしてたのかな?
……まぁ、IQ200の天才の考えなんて、凡人の俺にはわからないけど。あ~あ。こいつら三人に比べたら、俺は全てが普通。マジで普通だ!自慢できるステータスは、何もないんだよなぁ。
すると、掲示板を見ていた賢人の声に、俺はビクッと反応した。
「太郎おめでとう!一位だよ」
「え?」
俺は普通に固まった。俺が?入学してまだ一ヶ月の俺が、恋愛偏差値1位だとぉ!?
そんなバカな!
「ってさ、夢を見たんだよ!おい賢人?聞いてるのか?」
「ふ~ん、まぁ太郎。そんなに期待するなよ。まだ始まったばかりなんだからさ」
へへッ。賢人よ、その台詞にその髪をかき上げるしぐさ、夢と同じだぜ?
「ねぇ太郎(たろちぃ)、あたしは何位かなぁ?」
水乃か!
「知らねぇよ~ん」
「何?そのスケベ顔。笑顔は偏差値の一部だよ?」
うわぁ、水乃も同じだ!いや、つい俺のミスで言葉が変わっちまったが、これはひょっとするとマジで来るぞ!
ニヤニヤと廊下を歩いていると、次第に周りがざわついてきた。ランキング掲示板が近い。
「そんなに緊張しなくても、太郎なら大丈夫だよ」
「へ?何言ってんだよ花絵。あったり前だろ?」
やはり同じ台詞……後は現実を確認するだけだ!そう思って掲示板に目を向けたその時、すでに掲示板を見ていた賢人がサラッと言った。
「11位か……」
「おう、そっか11位か」
俺は思わず笑顔になる。まぁ夢より1が一つ多いけど、それならまずまずだよな。っていうか…… よかったぁ!
安心した俺は人混みをかき分け、ランキング掲示板の目の前にたどり着いた。
「えーと、佐藤 太郎11位……11……なっ!?おい賢人ー!」
「あれ?違った?っていうか太郎。いくら俺でも、ここから順位が見える訳ないだろ?」
くっそぉ、やられた!掲示板まで距離は確かにあった。なんで俺は賢人の異常な視力を疑わなかったんだ……いや、まぁいい。
俺は再び掲示板に目を向ける。そして1位から自分の名前を探すが、1年・佐藤 太郎の文字は見当たらない。
そんな俺が最初に見つけた名前は賢人だった。ついため息が出たよ。
「はぁ~。賢人は13位か……まぁ妥当だよな」
「太郎、俺何位だった?」
「うるせー!自分で見ろー!」
賢人は肩を落とす俺の横で、「ふ~ん、13位か」と、相変わらずサラッと言った。
「ねぇねぇ、あたしは?あたしは?」
「水乃……うおっ」
水乃は下がった俺の肩をさらに両手で下げ、掲示板を覗いた。俺と水乃は、ほぼ同時に同じ位置で目が止まった。
「おー!あたし22位だ!やったぁ!」
はいはい、凄い凄い。頼むから水乃さん、はしゃぐなら向こうでやってくれ。まだ佐藤太郎の名前がないんだよ。
そう思ってふと視線を横にやると、花絵が掲示板の下の方を見ていた。
「花絵?名前あったのか?」
花絵が静かに「ここかな」と指差した場所は56位。中間か……って、俺は何でホッとしてんだよ。
でも仕方ない。これが現実なんだ。俺は下を向いて振り返り、掲示板を後にした。そんな俺の後ろを、三人がついて歩く。
「そんなに気落ちするなって」
「はぃぃ?」
賢人くん?わずかにテンション上がってないか?
「そうだよ?太郎(たろちぃ)。アイドルの私だって、まだ21人も上にいるんだから。順位なんて気にしない気にしない!」
水乃……空気を読め。全然慰めになってないぞ……。芸能界は知らないが、一般ではそれを自慢というらしいぞ。
「そうだよ太郎。水乃の言う通りだし、三桁でもこれから頑張ればいいんだから。ね?」
「うぐっ……」
やべぇ。三桁って、なんて重量感のある響きなんだ。ショックで立ち止まった俺の横を、三人は通りすぎた。
「さぁて、また今日から頑張ろう!」
「だな」
「ウフフ」
うっ……前を歩く二桁組の背中が遠い。そりゃそうだ。御曹子にアイドルにIQ200。そして何もない三桁の俺、当たり前だよ。
窓の外から聞こえるすずめの鳴き声が、妙に俺の心にしみた。お前は小さい体なのに、あんなに空高く飛ぶんだよな……。
俺は両手で頬をパチンと叩いた。負けてたまるか!俺は普通だからこそ、この学園でトップを掴みに来たんだ!
気合いを入れ直しはしたが、歩く足は鉛のように重かった。
こうして俺の高校初の恋愛偏差値ランキングの発表は、全校生徒300人中……無名の圏外に終わった。
ちっ、ちくしょおぉ!
あとがき
ということで、恋愛偏差値50未満の第一話でした。約二年ぶりの復活ですね。お久しぶりの方も初めましての方も、改めて恋愛偏差値50未満を楽しんで頂けたら幸いです。ペコリ
ブログに載せよう載せようと思い続けて約一年。ふと思い出しましたのでうpしてみました。
主人公の佐藤太郎。単に日本で一番多い名字と誰もが知る名前というコンセプトで作りました彼を見てると、ひさびさに僕自身読んだので楽しく編集しております。
そっかぁ!こんな話だったな!なんて思いながら、ラブギャクの面白さを再認識しました。
低スペックの主人公、佐藤太郎が激戦の恋愛偏差値愛の木学園で、一体どうなってしまうのか?
この作品は未完結なので、マイペースに上げて行こうと思います。完結するのかな?笑