謝罪と波乱の幕開け|恋愛偏差値50未満3話
「お、戻って来たな」
教室を力なく歩く俺は、賢人(けんと)と目が合った。だけとなんとなく目を逸らしてしまった。そのまま俺は席に座る。賢人を目の前に、俺は窓の外を見つめた。
「どうした?太郎。ま、お前はわかりやすいからな」
確かにそう言われるが、今は違うんだ。俺はおもむろに立ち上がり、頭を下げた。
「すまん、賢人!俺、お前の偏差値を偶然見ちまったんだ」
「それで?」
は? 即答で返された俺は、開いた口がふさがらなかった。
「それでって……賢人お前なぁ」
「いいから太郎、それ以上は言うな。俺もお前も、来月の恋愛偏差値に関わるぞ」
ハッ!そうだ!これは校則違反だった……またやっちまった。
「と、とにかく俺は謝らなきゃ気が済まねぇから。ごめん!」
「別にいいさ」
そう言って前を向いた賢人に、動揺の色は全くない。このやり取りだって、評価対象なんだよなぁ。俺は自分の責任だけど、賢人を巻き込んだかもしれない。そう思うと、なんだかやりきれなかった。
午後の授業開始5分前のチャイムが鳴る。授業なんて集中できねーよ。でもこのまま過ごす訳にはいかないよな。愛の木学園といっても、勉強は普通の高校と変わらない。むしろ優秀な連中の集まりだ。
だが俺はすぐに、ついボーッと外を見ながら賢人の偏差値を思い出してしまっていた。恋愛偏差値78……13位かぁ。
「はぁ」
「太郎、まだスッキリしてないのか?なら頭より体を動かした方がいいぞ」
「賢人、だってもう昼休み終わり……」
あれ?体操服?次の授業は体育かよ!忘れてた!
「先行くからなー!」
「おい!ちょっと……」
賢人はグラウンドへ行ってしまった。やべぇ、後3分しかない。俺は急いで着替え、体育の授業へ向かった。
「佐藤太郎、遅いぞ!」
体育教師に声をかけられた瞬間、開始のチャイムが鳴った。
「すいません……ハァ」
賢人が俺を見て笑っている。本当に気にしてないみたいだ。少しホッとした。そして授業が始まると、賢人の言う通り体育の間に色々考える事はなかった。逆にスッキリして、俺はサッカーの授業を楽しんだ。
『ありがとうございました』
あいさつが終わった頃には、いつも通り賢人と話せた。
「見たか?賢人。あのボレーシュートは完璧だっただろ?」
「俺は太郎のオーバーヘッドが見たかったんだけどね。惜しかったけどさ」
「へへっ、まぁ仕方ねぇな」
こう見えても俺は中学までサッカー部だった。高校では実力を考えて辞めたけど、素人相手なら得意分野だ。
「あれは失敗。完全に調子に乗ったわ」
「だけど、少しもったいない気もするね。高校でもサッカーやればよかったのに」
「色々あんだよ。今は恋愛偏差値に一直線だからな」
そっか。そう言えばメモを見てなかったな。賢人と教室に着いた俺は着替えを終え、ゴソゴソと右ポケットのメモを探す。探すが……。
「ん?」
「どうした?」
「いや、なんでもない。賢人、俺ちょっとトイレ行って来るわ」
「ああ。時間ないから急げよ!」
「わかってるって!」
ヤバイヤバイヤバイヤバイ!
状況がよくわからず、とにかくトイレへ走った。なんでメモがないんだよ!もし無くしたなら、他の生徒に俺の偏差値を知られる可能性がある。
メモを無くした事を、学園にバレる訳にはいかない。焦った態度はトイレへ急ぐ緊急の行為!頼むぜ学校!監視されてるのはわかってるんだ。そう思ってくれよ!
そしてトイレへ到着し、もちろん大の方へ入る。ここにも監視カメラがあるとはいえ、更衣室やトイレといった場所に録画行為はない。現行のみの直視だ。
同性が監視し、いじめなどの異常行為さえなければ恋愛偏差値に影響はない……はず。
用を足すフリをしながら右のポケットを裏返すと、折り畳まれた紙が落ちた。よかった……あったよ。そう安心した俺の顔は、きっと監視カメラの奥で見ている奴の笑いを取ったかもしれない。
間に合った顔に見えてるだろうな。マヌケ顔だが、ホッとした顔には違いないからオッケーだわ。後は頑張って爆弾を投下すれば……賢人は恋愛偏差値78だったな……。
メモの中身
無事見事な一本をトイレへ生み出し、俺はメモを開いた。へへっ、これもまるでラブレターを見ているように写っているだろうな。俺もなかなかの演技派だぜ。
で、肝心の恋愛偏差値は……と
「んー?」
俺は一度メモから目を逸らし、もう一度中身を確認した。ちょっと待て!なんだ?これ。
そこには俺の偏差値ではなく、全く別の文字が刻まれていた。