バイト初日から大騒動|no name 4話
明くる日。午前中の講義を終えて家に帰ると、ベットへ横になった途端に寝てしまった。ハッと目が覚めてスマホを見ると、時間は午後五時だった。
良かった。寝過ごすところだった。ヒロムは六時頃って言ってた……バイト行かなきゃ。
急いで着替えて1階へ下りると、エプロン姿のお母さんが廊下に立っていた。
「あら?奈緒出かけるの?」
「うん」
今日からバイトとは伝えていなかったので、「居酒屋でバイトすることになったから」と話すと、お母さんは少しビックリしていた。
「居酒屋って、奈緒大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。早苗の紹介だから」
「そう。なら安心ね」
サナは何度も家に泊まったりしているので、親に信頼がある。私の方が信頼ないかもしれないなぁ。
「じゃ、行ってくるね!」
「帰り気をつけるのよ」
「うん」と返事をして玄関を出る。そのまま自転車にまたがろうとすると、いつもと違う感覚が体に伝わった。
後ろタイヤがパンクしてる……
急いで自転車から降り、スマホで時間を確認して走ることにした。歩いたらburstまで一時間かかっちゃう。急がなきゃ!
でも、私は運動も得意ではない。それでも歩くより少し速いペースで、六時前に駅前まで来れた。
もう限界……ヒロムごめん。
初日から遅刻なんて最悪だなぁと思いながら、ふとネオの姿を探してしまった。でも、あの場所にネオはいなかった。
昨日、彼の名前を知った。ネオか……家族は……いないんだよね……。
走る体力を失った私は、そこから歩いて居酒屋burstを目指す。
そんなネオの居場所が、レイの作ったno nameか……。あ、私メンバーになっちゃったけど、ネオは知らないんだよね。でもレイは自由参加って言ってたし、サナもいるからなんとかなるかな。
「あれ?」
そういえばヒロムのburstって場所どこだっけ?確かこの辺だったはずだけど……どうしよう……お店わかんなくなっちゃったよぉ。
「ねぇねぇ、今一人?」
「え?はい、一人ですけど……」
道に迷っていると、突然二人組の若い男性に声をかけられた。
「じゃあさ、これからどっか行こうよ」
「え……」
これってナンパ?困った……
「すみません、私これからバイトがありますので……」
「いいじゃん」
茶髪ロン毛に腕を掴まれた。逃げられない……。
「一日くらいサボっちゃえよ」
「嫌です。離して下さい!」
「嫌がる顔もかわいいねー!」
必死に逃げようとしたその時、「うぐっ」という声と「おい!」と怒鳴る声が耳に飛び込んできた。掴まれていた手が離れるのを感じて目を開けると、茶髪ロン毛の男性がお腹を押さえてうずくまっていた。
はっ!?
「いって……」
「テメェ、いきなり何すんだよ!」
怒鳴った短髪ピアスの男性が私の後ろを見てる。そう気づいた瞬間、私を殴るように右腕を上げた。
殴られる!そう思ってかがもうとしたその時、視界を誰かが横切った。「うごっ……」という声と共に、短髪ピアスの男性は顔を殴られて道に倒れた。
私が目にしたのは、黒Tシャツに黒レザーの長ズボンをはいた男性の背中だった。
この人……ネオ!
驚いていると、振り返ったネオは私の手首を掴んで走り出した。
「え?ちょっと!」
「……」
ネオは何も言わず、私は引かれるままに走るしかなかった。でも、100メートル程の道を二回曲がったところで体が悲鳴を上げた。足がもつれて転びそうになると、止まったネオの背中に頭をぶつけた。
「ハァハァ……助けてくれたのは感謝するけど……もう……走れないよ……」
すると、ネオは私の手首から手を離して歩き出してしまった。
「ハァ、待ってよ!」
話しかけても、ネオは無言のまま止まらない。両手を膝に置いた私は、ネオの足を止めたくて思わず叫んでしまった。
「私、あなたのバンドに入ったんだからね!」
ネオの背中がわずかにビクリとして、足が止まった!少し嬉しくなって近づこうとしたその時、ネオのそっけない一言で私は立ち止まった。
「そっ」
そっ……て、それだけ?no nameが大切じゃないの?ムカッ!
「あなたネオでしょ?名前があるのにどうしてno nameのままなの?」
私の声に、ネオの背中が少し上がってゆっくり下がる。ため息をつかれてしまった。
「俺はバンドに入ったつもりはないし。だからno nameなんだろ?」
「入ったつもりはないって、レイはネオのバンドだって言ってたよ?」
「レイが勝手に言ってるだけ」
素直じゃない!
「もういい!私行くから」
すると、ネオはズボンに入れていた右手を上げた。掌でって!もうちょっとマシな挨拶できないのかなぁ……まぁそういう人じゃないのはわかってるけど……あ。
「ちょっと待って!」
歩きかけたネオが足を止めた。やっぱり返事はないけど……
「あの……ヒロムのお店の場所ってわかる……かな?」
無言……聞いてない?って、ネオ行っちゃうの?
「ねぇってばぁ!」
歩くの止めて聞いてよぉ……
ガクッと肩を落としたその時、「こっち」と呟いたネオの声に、私は勢いよく顔を上げた。すぐに前を歩くネオに追いついたけど、なんとなく斜め後ろからついていくことにした。
顔を覗きこむと、普段長い前髪で見えないネオの目が、歩く震動と風のおかげで時折確認することができた。
やっぱりめんどくさそうな顔してる……でもよかったぁ。ネオがburstの場所を知ってて。
そうホッとしたのもつかの間だった。無言が辛い……仕方ない!
「ねぇ、ネオ。今日は路上ライブやらないの?」
反応なし……まだまだ!
「なんでヒロムのお店を知ってるの?」
「超能力」 「うわぁ!」
ビックリしたぁ。いきなり返事するとか予想してない……って、違う!からかわれただけじゃん!
「あっそう。超のうりょ……」
そう言いかけた時、急にネオが立ち止まった。……何?
ネオの顔の向きを追うと、そこにはburstの看板があった。着いたんだ……アハハ。
「ネオありがとね。後、助けてくれたことも……」
って、じゃ!くらい言えないの?
ネオはburstの前を歩いて通りすぎた。何考えてるのかサッパリだよ……。
ネオの背中が消えた後、改めてburstの周りの景色を確認。まだ明るいから全然わからなかったけど、これで場所は覚えた。
慌ててスマホを取り出すと、時間は六時を余裕で過ぎていた。ヤバイなぁ。ヒロムって怒ると怖そうだし……
意を決して寿司屋のようなドアを横に開け、中を覗きこんだ。
「こんばんわ……」
「いらっしゃ、おーナオか!マジで来るとは思わなかったぜ」
「え?」
笑顔のヒロムに拍子抜けした私は、その場で固まった。はめられたの?
「おいナオ、なにしてんだ?」
「え……だって、私もno nameのメンバーだからって昨日……」
「あーそれか。バイトとno nameは関係ないぞ?あれは俺のジョークだ」
「じょ、ジョーク!」
なにそれ!じゃあ私の勘違いってこと?
「帰る……」 「ちょっと待ったぁ!」
もぉー!ネオといいヒロムといい、なんなのよー。
「なぁナオ。せっかく来たんだからさぁ、手伝ってってくれよぉ。給料はちゃんと払うからさ」
「でも……」
「ならこれならどうだ?バイトしてくれたらネオの秘密を教えてやらなくもない……」
ネオの秘密!
「ハッ!」
しまった!ヒロムがしてやったりの顔してる。
「う……ん」
「決まりだな!ほれエプロン」
つい投げられたエプロンを受け取ってしまった。でも、あのネオに助けてもらったのは事実。秘密なんて言われたら……
「格好はそのままでいいからな!」
「うん……」
エプロンつけてしまった。
「ねぇヒロム。本当にこんな格好でいいの?」
「まぁ……メイド服着せる訳にはいかないしなぁ」
その顔、冗談に聞こえない……まさか本当はネオの秘密なんてないんじゃ……私またははめられたのかな。
「ん?なんだよその顔。まさか疑ってるのか?ちゃんとバイト代払うって!」
「そうじゃなくて……」 「いらっしゃいませー!」
あ、お客さんだ。
「お?マスター、可愛い子入ったね」
「どうもどうも。ウチの看板娘のナオです。以後ごひいきを」
ヒロムって口が上手いなぁ。真面目そうなサラリーマンの男性とも違和感なく接してる。
「もしかして、マスターのこれかい?」
こっ、小指!
「いやぁ、わかっちゃいました?」 「そんなんじゃないですー!」
恥ずかしい。やっぱり帰りたい……
「なんだ、違うのか。マスターはモテそうなのになぁ」
「いやいや。こう見えて実は奥手なんですよ」
「そうなのかい?」
『アハハ!』
二人はすごく楽しそう。私はどうすればいいんだろう。
「ナオ、冗談だからな」
笑顔のヒロムに、私は小さく頷いた。だから冗談に聞こえないんだけど……
「そういえばマスター。今日はあの生意気な男の子はいないの?」
え?
「そおっすねぇ、あいつは非常勤というか非常識というかなんで……」
「訳ありかぁ。マスターもよく我慢してるよ」
「まぁ、人生色々ありますからねぇ」
ちょっと待って!それってネオの事だよね?だからburstの位置を知ってた……え?じゃあ今日はサボり?ネオぉ……
「いらっしゃいませー。空いてる席にどうぞー。ほれナオ、案内してくれ。お?ナオ?」
「あ、うん。こちらへどうぞー!」
三人組の男性を机の席に案内した。ヒロムの言ってたネオの秘密が本当にあった!なんかやる気出てきた。
「えーと、とりあえず生中三つ」
「かしこまりました、少々お待ち下さい」
よーし、バイト頑張るぞ!
「ヒロム、生中三つ!」
「ナオー、そこはマスターだろ?」
「あ、アハハ。ごめん」
「アハハ」
カウンターのサラリーマン男性に笑われて恥ずかしくなった。少し調子に乗ったかも。
「初々しくていいじゃないの、ねぇマスター」
「わかります?だからスカウトしたんですよ。ほれナオ、生中三つ」
「はい」
完全にヒロムのオモチャだな……私……
「お待たせしました」
注文の品を置くと、時間も時間のせいかお客さんが次々に来店。業務をこなすのが精一杯で、いつのまにかネオのことは忘れていた。
「いらっしゃいませー!ナオ、頼む」
「あ、はい!こちらの席へどうぞ」
この店暇じゃなかったのかなぁ……忙しい……
「ほい、持ってって」
「はぁ~」
この時すでに二時間が経過。私はカウンターに両手を置き、大きく一息ついた。
「どうした?ナオ。疲れたか?」
「うん、ちょっと。ねぇヒ…まっマスター。こんなに忙しいのに、ネオは今日バイトに来ないの?」
「あー、やっぱり気づいてたか。ネオなら、外出て階段登ればいるんじゃねぇかな?」
「んん!?」
今なんて?ネオが……burstの二階にいる?
「マスター、ちょっと外します!」
「ちょ!ナオ、今行くのかよ!」
「すいませーん!注文いいっすか?」
「へっ、へい!」
鬼門
戸を明けて勢いよく外へ出たけど、居酒屋burstの壁沿いにある鉄製の階段を目にした瞬間、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
階段を見上げると、すぐに木造の扉を発見。あの奥にネオがいる……。
よし!と気合いをいれて、階段を一段ずつ登り始めた。そしてドアの前で立ち止まると、大きく息を1つついてドアをノックした。
「ネオ?いるんでしょ?開けてよ!」
反応なし。いないのかな……。
ふと右に目をやると、ガラス窓があることに気がついた。電気は消えてるってことは、いないかも……ガチャ
「え!?」
突然ドアが開くと、眠そうなネオが頭をかきながら「うるさい……」とでてきた。
ビックリしたけど、すぐにバイトの事を思い出して両手を強く握った。
「う、うるさいって、ネオお店手伝ってよ!忙しいんだから」
って、聞いてないし……。
ネオは振り返って部屋へ戻ってしまった。すると、うっすらと部屋の中が見えた。これがネオの部屋……何もない……
「え?」
再びネオがドアまでくると、ギターケースを握りしめて階段を降りていった。
「ちょっとネオ……」
こんな時間にギターを持ってどこに……そっか、路上ライブだ。
ポケットからスマホを出すと、時間は八時半。こんな時間から路上ライブをやってたんだ。だからあれから一度も見なかった……じゃない!
私は急いで階段を降り、ネオを追いかけた。
「ネオー!」
叫んでみたけど、見える範囲にネオはいなかった。すると、burstの戸が開いた。
「ナオー?早く手伝ってくれ!」
「あ!ヒロム。今戻るから」
そう言うと、ヒロムは賑やかな店の中へ戻っていった。私はキョロキョロしながら、お店に入った。やっぱり、ネオを見つけることはできなかった。
ヒロムはネオが来ないことがわかっていたのか、ネオのことを何も聞いてこない。仕事をこなしながも、私はやっぱり路上ライブを続けるネオが納得できなかった。
レイやみんなの気持ちを考えると悔しい。no nameがあるのにどうして……
「ウーロンハイにレモンサワーですね。少々お待ち下さい」
ダメだ。今は忙しいんだから、仕事に集中しなきゃ!
「マスター、ウーロンハイにレモンサワー入ります!」
「はいよー」
「すいませーん」
「はーい!今行きまーす!」
今度は別のテーブルへ注文を取りに行く。仕事をしてはいるけど、やっぱりネオの後ろ姿が頭から離れなかった。
「ごちそうさまぁ。」
「ありがとうございましたー!」
最後のお客さんを送り出した時、時計を見ると日付が変わっていた。
「はぁ~、終わった……」
ホッとして振り返ると、ヒロムがカウンター越しに一杯のグラスを置いた。
「お疲れー。ほれナオ、ウーロン茶だ」
「ありがとう……マスターぁ」
好意に甘えてカウンターに座る。本当に疲れた。
「ヒロムでいいぞ。バイトは終わったからな」
「そっか」
ヒロムは食器を洗い始めた。手伝おうとして立ち上がろうとしたけど、足がプルプルして立てない。すると、ヒロムが背中を向けたまま嬉しそうに話し始めた。
「いやぁ、今日は俺も疲れたぞ。ナオ、お前は客寄せ天使か?まぁ売上げ出たし、助かったぞ」
やっぱり今日は忙しかったんだね……
「ヒロム、それは私じゃなくて、悪魔が出て行ったからじゃないの……?」
力尽きるように、私はカウンターに顔を伏せた。
「悪魔ってお前。それネオのことか?アハハ。どっちのおかげかわかんねぇけど、明日も頼むわ」
「それはいいけど、明日ネオはお店に出るの?」
「わかんねぇなぁ。まぁナオの言い方だと、ほとんど出てないように聞こえるけどな」
洗い物を終えたヒロムは、グラスにアップルジュースを注いだ。
「だってネオだよ?」
「その言い方。仕方ねぇって言えば仕方ねぇけど……」
ヒロムはジュースを飲みながら私の前に来ると、ため息をついて肩を落とした。違うの?
「まぁいいや。今日は遅くなったしな、車で送ってくわ。続きはまた後な。これで店を閉めてくれ」
「うん……」
鍵を受け取り、ウーロン茶を飲み干して外したエプロンをカウンターに置いた。私はまた、勘違いしてるのかなぁ……
ヒロムは車の鍵を持って外へ出た。すぐにエンジン音が聞こえてきたので、外へ出て入り口の戸を閉める。すると、白い箱形のバンが店の前で止まった。
「ナオー、鍵閉めたか?」
助手席の窓が開き、ヒロムがこっちを覗き込んだ。
「うん、はい鍵」
窓から鍵を渡すと、ヒロムは手を伸ばしてそれを受け取った。
「サンキュー。じゃ、乗ってくれ」
「うん。ねぇヒロム……」
「なんだ?」
助手席に乗った私は、ついうつむいてしまった。その態度をヒロムは気にしてくれたのか、すぐに車を走らせなかった。
「ナオ、そんなにネオが気になるのか?」
ヒロムの声に、私は小さく頷いた。
「そう言われると、自分でもよくわかんないんだけど」
チラッとヒロムを見ると、運転席側の窓から外を見ていた。
「まぁ、男の俺から見てもネオのカリスマ性は否定出来ない。レイが惚れるのもわかるわ」
「私は別に!……惚れるとか、そんなんじゃ……」
そうだよ。私は別にネオが好きな訳じゃない。ただ納得できないだけ……。
すると、ヒロムが車を走らせ始めた。
「ちょっと、寄り道してみるか?」
「え?どこ行くの?」
「それはな、着いてからのお楽しみだ」
「また冗談?」
「いやいや、これは本気。っていうかこの会話おかしくねぇか?もうちょっと信用してくれよ」
「だって……」
no nameのやってることが、本当によくわからないんだ。
「緊張をほぐすにはな、冗談言って笑わすのが一番なんだよ」
「それはわかるけど……」
するとヒロムは、「ん~」と左手であごをかき始めた。
「ネオか……あいつは冗談すら通じねぇ鬼門だからな。それでも突破してみねぇか?」
「無理無理。ネオが一番何考えてるのかわかんないし」
「まぁ、何でもやってみないとわからないだろ?ほれ、着いたぞ」
「え?」
着いたって……ネオじゃん!あ……まだ歌ってる……あれから四時間は経ってるのに。
「あいつまだ18だろ?高校行ってれば三年だ。遅い時間は辞めろって言ったんだけどな。言うこと聞かねぇから、俺も大変で……」
「そうなんだ……」
ヒロムは両腕をハンドルに置き、頭を伏せた。
「ヒロム、毎日迎えに来るの?」
「ここならいいんだけどな……」
顔を上げたヒロムは、駅前の駐輪場のある方向を見た。交番を目にした私がまさか……と思った瞬間、ヒロムがガバッと顔を上げて私を見た。
「だってよぉナオ、あいつここんとこ補導されまくりだぞ?家族がいないから、保護者ヅラして俺が警察署まで行くんだぜ?……まぁ、たま~にレイに頼むけど……」
ヒロムの苦労が顔に出ていた。交番どころか警察署って……確かにあの警官なら手に追えなそうだけど。ヒロムやレイは、普段ネオの為にそこまでしてたんだね……。
「ヒロムが家族って言ったけど、no nameって不思議な場所だよ。私には、ついて行けない……」
「そうか?ナオは素質あると思うけどな?」
「え?」
心配した私がバカだった。ヒロムが悲観したのは一瞬。今は呑気に鼻をほじってる。でも素質って言われても、私はサナじゃない……。
「まぁ、縁があって今があるんだろうな。それに、悪いことばかりじゃないだろ?」
「うん……」
ネオの為にここまでするのは、ヒロムにとってはレイの為?それなら私にもわかるけど。
「あれ?アイツ今日ギター下手くそだな。また喧嘩したのか?」
喧嘩……
「あ!」
「なんだ?ナオ知ってるのか?」
「うん。今日burstに行く途中に絡まれちゃって、ネオが助けてくれたの」
「正当防衛か。なら怒るのは無しだな」
「うん。それでお礼言ったんだけど、ネオに無視された」
「そんなのいつものことだぞ?あいつの辞書にお礼の文字はないからな。まぁ、怪我してんならそろそろ帰るだろ。行くか?」
「うん」
それから私の案内で、ヒロムは家まで送ってくれた。車から降りて「ありがとう」と言うと、ヒロムは笑って「明日も頼むな~」と走り去っていった。
家に入って湯船に浸かると、あまりの気持ちよさに「あ~」と声が漏れた。でもすぐにno nameのことを思い出すと、ボーっと天井を見つめてしまった。
ヒロムはバイトがno nameと関係ないって言ってた。それならどうして私はno nameのメンバーにされたんだろう……。バイトは行こうと思うけど……。
その時、ヒロムの言った通りネオのギターがおかしかったことを思い出した。
ネオは、どうして助けてくれたんだろう……